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【コラム】とちぎの風土が育んだ「舞」の魅力

どこからともなく聞こえてくる、笛や太鼓、鉦の音――。その響きを耳にするだけで、胸が高鳴ります。その響きを背景に繰り広げられる「舞」に目を凝らしてみると、同じ民俗芸能という括りでありながら、驚くほど表情が豊かなことに気づかされます。


神の化身になる者、道具を打ち鳴らす者、竹の音に祈りを託す者。今回の特集で取り上げた3つの「舞」の魅力に迫ってみましょう。

獅子が魅せる、劇的で壮絶な「神霊の躍動」― 天下一関白神獅子舞(県指定名称:関白獅子舞)

宇都宮市の関白山神社に伝わる「天下一関白神獅子舞」の真骨頂は、観る者の息をのませる圧倒的な「力強さ」にあります。

この一人立三匹獅子の由来は、都から賊退治を任じられた藤原利仁公がこの地で生涯を閉じた時の葬儀のおり、一天にわかにかき曇り、辺り一面闇夜のようになったので、三匹の獅子を舞わせたところ、天候が戻り、以来、悪魔退治、国家安泰の祈りの舞となったと伝えられています。

頭を大きく振り乱し、地を強く踏み鳴らす足取りは荒々しくも美しさを放ちます。悪霊を祓い、そこに神を招き降ろそうとする生命力の爆発――この力強さが「天下一関白神獅子舞」の魅力です。

  • 天下一関白神獅子舞

歓喜とユーモアが爆発する「人間賛歌」― 上石上の城鍬舞(県指定名称:城鍬舞)

大田原市の 「上石上の城鍬舞」において、獅子舞の獅子頭のような神の仮面は存在しません。 舞い手が手に取るのは、なんと本物の「鍬(くわ)」です。

かつて大田原城が完成した折、城主の前で酒に酔った農民が歓喜のあまり鍬を手にして踊り出したという、なんとも微笑ましい逸話がこの舞のルーツとなっています。着物姿の12名の少女が鉄棒でカンカンと鉄の鍬の先を打ち鳴らし、軽快にステップを踏む姿は実に陽気です。神へ捧げる神聖な舞というよりは、過酷な労働さえも娯楽に変えてしまった人間の逞しさと、「生きる喜び」を謳歌する純粋な風流(ふりゅう)の姿が「上石上の城鍬舞」の魅力です。

  • 上石上の城鍬舞

  • 上石上の城鍬舞

実りを告げる竹の音色と「祈りの舞」― 河井のささら

茂木町の「河井のささら」の「ささら」という名前から、調理器具の竹タワシが連想されることがあります。しかし、実はこれも「獅子舞」の一種なのです。

ただし、お正月に頭を噛んで回るような街頭の獅子舞とは、受ける印象がまるで違います。舞の背後にあるのは、平安の世、この地に残され病に倒れた長寿姫の切ない物語です。舞い手である子どもたちが腰太鼓を叩いて舞い、周りでは細く割った竹の和楽器「ささら」を擦り合わせます。

この「シャリシャリ」という繊細な音色は、風にそよぐ稲穂の擦れ合う音になぞらえられ、秋の豊かな実り(五穀豊穣)を神に感謝し祈る音ともいわれています。

亡き姫への追悼と、恵みの秋への感謝――竹の音色に二つの祈りをのせた、どこか切なくも温かな舞い姿。これが「河井のささら」の魅力です。


悪霊を祓い神を迎える力強い舞、生きる喜びに溢れた陽気な舞、そして祈りを静かに紡ぐ抒情的な舞――。同じとちぎの地に根ざしながら、それぞれの舞が持つ表情は驚くほど多彩です。それは、厳しい自然とともに生き、神を敬い、日常の喜怒哀楽を歌や踊りに託してきた先人たちの「心のカタチ」そのものなのかもしれません。

太鼓の響きや竹の音色に耳を澄ませ、舞い手の息遣いを感じてみると、そこには、時代を超えて現代の私たちにも語りかけてくる、とちぎの風土が育んだ豊かな物語が息づいています。

  • 河井のささら

  • 河井のささらで用いられているささら